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b)生理学的検査に基づいた被験者の身体的健康度の事前調査
本研究において採用した、血液検査、心電図検査等による被験者の身体的健康度の事前調査も従来の研究には見られない新しいアプローチである。通常の健康診断と同様の血液検査結果から、被験者をいくつかのグループに分けることができることが明らかとなったことの意義は大きい。ただし、図2.2.2−2および表2.2.2−4は可能性を示す例であり、更にデータの数を増やすことによって統計的有意性を証明できるようにしなければならない。また,生理学的な被験者のタイプ分けと精神的な見地からのタイプ分けは必ずしも一致しないので、医学的見地からの検討を含めた更に詳しい調査を必要とする。
C)動揺暴露実験における生理的、心理的変化の計測、解析、評価
文献調査によれば、動揺暴露実験そのものは決して珍しいものではなく、医学分野では、めまいの研究には多用されている。また、工学分野における研究においても多く用いられる手法であるが、被験者からの「Informed consent」に基づいて、血液検査、脳波、心電図等の計測によって被験者の生理的変化を追究しようとした例は殆ど見あたらない。
本研究において行われた、被験者の生理的変化の計測、解析の結果、2.2.3において詳しく述べられたように、乗り物酔いの発症にはストレスが原因の一つとなって肝機能の急激な低下が関係していることが明らかとなった、このような詳しい検討は医学・工学の連携によって可能となったと言うことができる。
また、生体が自然に持っている免疫機能である、ナチュラルキラー細胞活性の動揺暴露による低下も新しい知見であるということができる。
酔いの発症過程において重要な意味を持つ心理的変化につながるアドレナリン、ノルアドレナリンの増加も興味深いところであり、この研究の新しい展開の方向を示唆するものであろう。
脳波から得られる情報は、酔いの発症過程における心理的変化を客観的に把握するためには重要であると考えている。現在までは主として工学的データ処理に頼った解析を行ってきたが、この点に関しても医学関係者との連携が望まれる。
心電図計測に関しても同様で、波形の解析から得られる情報を重視した解析法の展開が望まれる。
d)動物を用いた動揺暴露実験
ニホンザルを用いた動揺暴露実験の結果は極めて興味深いものがある。心理的な反応は人間の場合にのみ陽に現れると考えがちであるが、猿の中でも脳の発達の度合いが高いニホンザルの場合には、脳波のみならず、表情、所作を含めて、人間の場合と同様に心理的影響が強く現れていることが明らかとなった、但し、酔いの発症の確認はできなかった。
3年間の研究において得られた諸データの全てを解析できてはいないが、種々の解析法の適用によって、医学的見地からの分析に適した解析方法を見出すことができた。また、かなりの項目について乗り物酔いの量的指標設定の要因となることを見出すことができた。
今後は、本研究において蓄積されたデータを有効に活用するとともに、得られた成果をより確実なものとするためにデータ数を増やす努力を考えなければならない。

 

 

 

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